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主婦ライターの始まりと終わり

通信制大学の生活に慣れ、落ち着いてきた頃に主婦ライター業を始めた。レポートとはジャンルが違うが、相手の要求を満たすという点が同じ。よい訓練になる。それだけでなく対価が支払われるのだから、これ以上ないアルバイトだ。

当然文章書きに関しては素人であったから普通のライターとは違う。主婦が隙間時間を使い運営の要望に沿ったウェブサイトの記事を書くだけだ。SEOを意識したタイトル、契約サイトの画像やフリー素材を使い、わかりやすく小見出しをつけ読みやすさを優先する。

私が契約したのは以前利用した経験のあるキュレーションサイト。担当編集である社員さんとスカイプミーティングも行った。パソコン画面に映る明るいオフィスと都会の女性。久しぶりに労働している感触を味わいながら、最初に提出した記事案はあっさりボツ。理由は個性がありすぎるから。個性を出さないように、しかし目をひく、コピペではない記事。これってなかなか難しい。自分を殺すような気持ちになりつつも「これは訓練だ」と言い聞かせる。

記事が仕上がり、公開されるとやはり嬉しい。我が子が初めて歩いた日のような。そしてまた書きたくなる。その繰り返しをコツコツと続けた。

マニュアルは月ごとに大きく変化していった。まだサイト自体が手探りで迷走していたのかもしれない、読み手にも書き手にも見えない会社内部で。書くことよりもその変化に不安と疲労が出てきたころ、自身の卒業研究を理由に契約を終了することにした。契約が終わる際、決まり文句のように「またご縁があればよろしくお願いいたします」と言われたが、そのご縁はもう無いだろうという予感はあった。しかし、まさかこんなに早くそれが決定づけられるとは思わなかった。ご記憶に新しいであろう、キュレーションサイトの誤情報問題である。

最初にあのニュースを見たときは驚いた。私はあの誤情報を発したサイトに関わっていないが、あのグループは(少なくとも私の関わったサイトは)コピペに関して厳しい印象があった。コンプライアンス的なこともあり詳しくは書けないが、記事のチェックも細かくなされていた。ただ、学生アルバイトを雇って時間を区切り記事を書かせていたという情報など、私とは違う形態で書いていた人がいるのも判った。だからそちらの方は方針が違ったのかもしれない。末端にいた私の推測でしか無いのだが。

気になって自分の担当編集だった社員さんの名前を検索した。ミーティングの際「趣味で〇〇をやってるんです」と言われ彼女の名前を検索したことがある。そのときは生き生きと趣味と仕事についてSNSで発信されていたが、非公開に変わっていた。非公開のことを「鍵をかける」というけれど、本当にその社員さんが自分の部屋の鍵をがっちりと締め扉を閉ざしてしまったような印象を受けた。そして同じように、そのキュレーションサイトも非公開となり、当然私の書いた記事も公開されていない。「主婦ライター」という、主婦の日常にふと訪れた非日常も鍵をかけて終わった。