コーヒーカップを求めて

先日あの珈琲豆専門店に行ってから、既に数回再訪している。新たに贈り物、もちろん自宅用にも購入したかったからだ。購入のたびに試飲させてもらえるようで、ナイトブレンドを頼んだ時は「その味に近いものにしましょう」とマンデリンを試飲させてもらった。マンデリン、好きだ。夜にそのまま溶けていきそう。

そして我が家は朝からナイトブレンドである。相変わらず多忙な毎日を過ごす夫には、ハードに目を覚ますより、穏やかな方が良いであろうと判断したためだ。さあ香りを楽しんで、味もいいでしょ、と言いながら私は友人の結婚式の引き出物だったハナエモリのマグカップにコーヒーを注ぐ……ん?何か違うぞ。

コーヒーは美味しいけれど、このマグカップはなんか違う。これはむしろ紅茶寄りのデザインと質感。とめどなくあふれる実家感。もっと無骨で重厚で、釉薬が前面に出ているような、少し鉄っぽさすら感じるあの店の試飲カップ&ソーサーが急に恋しくなった。あれはコーヒーと非常にマッチし、より美味しさを醸し出していた。重すぎず軽すぎないあの感触、マグカップまで行かない程よい大きさ。あれが欲しい。あれに近いものでいいから。こうやって人はコーヒー沼にハマっていくのか。いいぞ、私は自らコーヒー沼にダイブしてやろうではないか。

自宅から一番アクセスしやすい百貨店に向かう。ここならいいものがあるだろう。私には贈答品でいただいた商品券がある、どんと来い。子どもに「絶対に手を触れないように!」と厳重注意をしながら売り場を丹念にチェックする。イッタラウェッジウッド白山陶器……素敵だけど何かが違う。子どもが「ねーねーこれはどう?」とムーミンを指差す。ムーミンはダメ。可愛いけど今日はダメ。ママはもっと重いのを求めてるの。

前から欲しかった南部鉄器の急須が目に入る。これで沸かしたお湯で作るコーヒーもいいかもしれないな。お茶にも使えるからな。しかし今はコーヒーカップを求めているんだ。百貨店がなければ他の店へ行こうと外に出た瞬間、子どもの音楽教室の先生にバッタリ会った。我々の事情を話すと「それはあの店に行ったらいいんじゃないかしら?行っちゃいなよ」と背中を押された。

あの店とは、最近近隣にオープンしたショッピングモールであった。平日とはいえ人でごった返しているらしい。しかし、見たこと無い店も入っている。もしかするともしかするかもしれない。我々はショッピングモール行きの特別シャトルバスに乗り込んだ。

そこはショッピングモールではあったが、大人も過ごしやすい空間を売りにしていた。照明も暗めに設定してある。期待は増すが、人が多い。とにかく多い。この人波が落ち着くまであと何ヶ月かかるだろうか。これぞというコーヒーカップも見つからない。途方にくれた私が見つけたものは、食料品コーナーのもやし特売一袋9円。次のレッスンで私は先生に伝えなければならない、先生もやし9円でしたよ、二袋買っても18円でしたよ、と。

コーヒー沼は一度ダイブすると簡単に起き上がらせてくれない沼であった。今朝も私はハナエモリのマグカップに美味しいコーヒーを注ぐ。家族を送り出したら、Amazonで注文していたHARIOの円錐型ドリッパーとペーパーフィルターが届いた。沼からゆっくり起き上がり体勢を整え、一歩ずつ進もう。コーヒーカップ探しの旅はまだまだ続く。