山岳地帯への旅:その4

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山岳地帯での初の宿泊。まだ外が暗いうちから”床がうるさい”。高床の下にいる鶏が朝(夜中?)三時からコケコケ鳴いているのだ。普通鶏というのは朝5時ぐらいに鳴くのではないのか。床の隙間から鶏の気配をダイレクトに感じる。イライラしつつも毛布を巻きつけ眠った。ティソさんの家は壁などなく、奥の方でティソさんやロカたちが寝ているのは判った。

次に気がついたときには何者かが私の体を揺り動かしていた。目を開けるとコーディネイターTさんの娘たちがいた。「もうみんな朝ごはん食べちゃったよ!」と言われ慌てて体を起こすと、奥にいたはずのティソさんたちだけでなく、側で寝ていたはずのホームステイ仲間Kさんの姿もなかった。私の食事だけとっておいてもらえたらしく、それに手をつけてから顔を洗いに外に出た。

すっかり陽ざしが眩しい時間帯だった。この日、大人たちのほとんどは農作業を手伝いに出かけると聞いていた。ホームステイ仲間Kさんもティソさんの畑についていったのだろう。ツアーメンバーの中にいた獣医師のおじさんは、家畜のチェックをしていた。私はどうしようか…と思いながら広場に行くと、小学生の子どもたちは鬼ごっこなどをしながら楽しく遊んでいた。私はそういう歳でもないな。でもここまで来て農作業をする気持ちにはなれなかった。大人にもなれない宙ぶらりんな自分を自覚した。

「川に行こうってロカが言ってる」とコーディネイターTさんの長女が教えてくれた。川!体が洗えるじゃないか!私は「シャンプーと着替え取ってくる!教員夫妻の娘ちゃんも呼んでくる!」と長女に伝え、慌てて走りだす。

学校寮でシャワーを浴びた記憶もないので、私はおそらくこの旅でお風呂の類に入っていない。水に濡らしたタオルで体をさっと拭く程度だった。やっと髪が洗える。私はドラムバッグの中からシャンプーを取り出す。当時中高生に流行ってた資生堂ティセラ17番、グリーンアップル系の香りが強いシャンプー。教員夫妻の娘ちゃんを「シャンプー貸してあげるから!」と張り切って連れ出した。

ロカが先頭で現地の子どもも日本人も一緒に川へと向かう。低地に下って行くと、農作業をしているみんなに出会った。段々畑まではいかないが、山地に工夫して狭い畑をいくつも作っていた。みんなに手を振って、草を分けて進む。大きすぎず小さすぎない、私の田舎にそっくりな川にぶつかった。子どもたちは大はしゃぎで川遊びを始める。ロカは少し大きい岩の上に座り、子どもたちの様子を伺っているようだった。川に手を浸すとその透明さと冷たさに心が潤う。灼熱の村から、一瞬日本に帰った気がした。

私と教員夫妻の娘ちゃんはシャンプーを開始した。手でなんとか髪に水をかけシャンプーを泡立てると、異様にモコモコと泡立つ。現地の子どもが不思議そうにそれを見ているのが判った。泡立ちが良いぶん流すのが大変だったが何とかすすぎ終えた。私の使った泡が川に浮いている。この村の川を汚してしまって申し訳ない気持ちになった。髪の毛はさっぱりしたが、後悔は大きかった。あとは水で適当に手足を洗った。服に隠れた部分はあのトイレで洗おう、と思った。我々が洗い終えた頃、またロカが先頭で同じ道を戻っていく。私はティセラの香りをプンプンさせながらついていく。

広場に戻ると、大人組の独身男性と中学生男子がいた。「あーラーメン食べてえな」「牛丼もいいな」などと言っている。「トロピカーナ飲みたい」と私が言うと、二人は「トロピカーナ!?なんだそれ」と驚いていた。「ちょっと美味しいフルーツジュースだって。学校の近くのコンビニに売ってたよ」とこたえると、「なんだよ〇〇高校だからって都会ぶってんじゃねーよ」と中学生がイキがった口をきいた。

私たちの田舎にはコンビニなど無かったわけだが(現代はかろうじて一軒ある)、この村はコンビニの有無などとは別次元にあった。こんな風呂も電気もない赤土の山岳地帯で、そんな日本の話をするという滑稽さ。この時点で私はまだ日本が恋しかった。村はぶっ飛んでいて面白いけれど、「やばいところに来ちゃったな」という気持ちはあの美しい川の水でも洗い流せずにいた。(まだまだ↓続く!)