文化的生活の記録

「旅文学」の小さな本を作り始めました。

濃い一年を送りたいなら

二十五歳のとき、親しい仲間の一人が結婚した。「一番結婚しなさそうな人があっさりと結婚した」という話はよく聞くが、彼女の場合もそうであった。彼女が結婚したことで仲間たちはみんな「自分にとっての恋愛・結婚」を考えるようになった。もちろん私も。

そこで仲間の一人があるコンパの話を持ってきた。コンパといっても、大人数でやるタイプのものらしい。それってお見合いパーティーなの?と聞くと、そうではないと言う。ライブ会場でやるらしいよ、と聞いてますます謎に思いながら仕事帰りに待ち合わせて向かうことにした。

それまで仲間たちとは仕事後にお茶をしたり休みの日にランチをする程度で、飲みに行くとか、ましてや繁華街に繰り出すということはなかった。私は二十歳から働いているが、仲間たちは大学を卒業してやっと落ち着いてきた頃。まだ学生時代の気分で会うことが多かった。そんな私たちが夜の繁華街にいる。普段取引先との食事で来るような場所に。そんなワイワイガヤガヤとしたネオンの街の一角に、その店はあった。

扉を開けるといきなりバドワイザーのぴったりした服を着た”バドガール”さんがお出迎え。「いらっしゃーい」と柔らかく言われる。中に入ると男女のみなさんが歓談していた。そして奥にはステージがあり、ドラムセットやアンプなどの機材が並んでいる。そうだね、ライブ会場だもんね。

軽い調子のお兄さんが司会を始めた。男女にわけた小さいグループをいくつか作り、時間を決めて交代してトークしていく。最後に紙に気に入った人を書いて投票するという仕組み。なるほど、お見合いパーティーは一対一だけど、これはグループ対グループの形式なのか。早速トークが始まった。仲間で一番の美人がグイグイ引っ張ってくれたので、のんびりとそれを眺める。面白いお兄さんから地味なお兄さんまでいろんな人がやってきた。「俺、きみたちに投票するから、ちゃんと俺にも投票してね!」と言う陽気なお兄さんもいた。

最後に現れたのは謎の集団だった。年齢も性格もバラバラな雰囲気。最初から「いい人をみつけたい」というガツガツした感じが全くなく、表面的な会話を楽しんでいる様子だった。真面目そうなお兄さんがいたので、安心して真面目に話していると仲間に話し相手を奪われた。うっ、こういうとき友情は無情に変わるのだな。

トークが終わり、投票用紙が回収される。「ではライブをお楽しみください」と司会のアナウンス。そこで立ち上がったのは、あの謎の集団のお兄さんたちだった。やる気がなかったのはライブをするために来た人たちだったからなのだ。そういうことか、と私は納得した。謎の集団は洋楽カバーを数曲披露した。ボーカルの声に合った気持ちの良い選曲*1。女子たちみんな、うっとりと聴き惚れている。あれ?もしかしてみんな男女の出会いとかどうでもよくなっちゃってる?

ライブが終わり、会はお開きとなった。投票結果は?と思ったが「ベストカップルの発表でーす」といったシーンは見られなかった。なんだそれ。そのまま私は帰宅した。

後日、あの謎の集団の一人が経営するバーに行くことになった。仲間のうち二人が、あの謎の集団の人々とお付き合いすることになったからである。私が帰宅した後でそんなことになっていたとは。あの場にいた人々もほとんどライブや店の常連だったと知った。バドガールもお客さんで、その日はOLの事務服を着て現れた。なんだよ、知らなかったのは私たちだけだったのか。「俺、きみたちに投票したんだからね?」とあの陽気なお兄さんもやってきた。投票結果は常連の酒の肴にしかならなかったようだ。

バーでもソフトドリンクを飲む私に、ある人が「きみたちは最初ものすごく陰気で暗い感じだったよ。もっと明るく過ごしなよ」と言ってきた。非常に腹が立った。”うまいこと利用してきた人々”に”真実を突きつけられる”という二重の出来事に。

「どうせ私は暗いんだから」とその環境に壁をしてもいいところではあったが、それは負けのような気がした。それから私はちょくちょくその界隈を訪れるようになった。そのバーだけでなくいろんな繋がりが増えていった。主にお笑い担当として盛り上げ役に徹しながら、仲間だけでなく様々な人々の恋愛や友情のあれこれを眺めた。人との会話に慣れることが人間関係を構築する一歩であること、こういうところでみんなが思いを吐露したり発散していく場合があることを知った。

繁華街で外国人に声をかけられ、面倒だなと思いつつも「この人を連れて行ったらどうなるだろうか?」と思いあの界隈へ連れていき、たのしい一日を過ごしたこともあった。ライブにも積極的に行くようになった。前に書いた田辺マモルさんのライブも、このような繋がりがなければ見ることはなかっただろう。

そんな生活は一年で終わった。仲間が謎の集団の人々とお別れすることになったからである。「私が別れるからって、行くのをやめなくていいんだよ?」と彼女らは言ったが、もう私には充分だった。ちゃんと私には繋がりを広げる力が身についたから。あのバーの界隈だけが私の世界ではないから。きっと最初の頃の「陰気で暗い」感じは、なくなっているはずだ。

もしあなたが濃い一年を送りたいなら、繁華街のバーに飛び込んでみることをおすすめする。ソフトドリンクでも刺激的な時間があなたを待っている。出会いがないというのなら、知らないバーに行って会話をするのは良い訓練になる。恐れることなく飛び込め!一年後、陸にあがったときの爽快感、保証しますから。

*1:どんな曲かここに書きたいけど身バレを防ぐため書けない…悔しい…