特別なパン

以前「ケーキ屋の立地のポイント」を聞いたことがある。あえて駅より遠い場所が理想なのだそうだ。駅前のケーキ屋さんは便利だけど、流行っているケーキ屋さんは何となく不便なところにあるものが多い。「わざわざここまで買いにくるスペシャル感」を味わうのが大切なんだそうだ。なるほど、「ケーキを買いに行く」というちょっとしたイベントを楽しむことに意味があるのか。

最近、パン屋さんに行くときも同じような楽しみ方をしていることに気づいた。我が家では土曜の朝が「特別なパンの日」と制定されている。いつも平日は食パンやごはんを食べているが、土曜の朝はパン屋さんのちょっといいパンを食べようと決めているのだ。ちなみに日曜は特に決めておらず、ホットケーキであることが多い。時に土曜にうっかり食べ損ねた場合の「特別なパン・予備日」となることもある。

「特別なパン」は前日の夕方に購入することが多い。私が家族のいない間に買うこともあるが、ここ数回は子どもと少し遠くのパン屋さんへ行ってみた。子どもの運動量を増やそうという目的もあり、散歩に連れ出す口実として使っているのである。我々は駅やバス停を通り過ぎ黙々と歩く。細い道を飛ばす車から子どもを守り、信号のない交差点でタイミングをはかりながら。

たどり着いて子どもがわぁっと声を上げる。オシャレな洋館といった雰囲気のその店は、装いだけでなくパンの質も良い。見た目からも味からも、丁寧に作られているのがわかる。子どもはフルーツの乗った甘いパンを欲しがるが、白い食パンのほのかな甘みと塩気も好ましい。店のビジュアルと商品の質の均衡がとれているというのは重要なことだな、と思いながらレジに向かう。どちらかだけではダメなんだよな。

帰り道を歩きながら「ママが小さい頃はどんなパンを食べてたの」と聞かれた。「ママが小さい頃はこんなオシャレなパンなかったよ」と笑い、ふと気づいた。子ども時代にしたくても出来なかったことを、大人になって徐々に叶えていること。自分の家族・大学の勉強・音楽を楽しむ……。簡単には手に入らない美しいものは、一生をかけてゆっくりと手にしていくのだろう。特別なパンを買いに行く散歩のように。


 ==========

追記

◎5月20日は朝8時に更新します(予約投稿完了!)昨日今日とぬるめの文章だったので明日のはガッツリ暗めのやつ……

◎今更ですがこのブログに「スター」をくださったみなさん、ありがとうございます。そして「読者」になってくださった第一号の方!ありがとうございます。とても励みになっています。