水深2m超

そのプールに入るのは18年ぶりだった。そしてきちんとプールで泳ぐのもその日以来のこと。自動販売機でプール券を買って受付に出す。エントランスを通ると懐かしいプールの香りがした。

平日の昼間から公立のプールに来る人など限られている。更衣室には誰もいない。先日買った水着に着替え洗面所でメイクを落とす。公立だから、大きなメイクルームやドライヤーが無いと気づいてしまった。こういうときはドライヤーを持参するべきなのだろうか。わからないまま着替えを済ませシャワーを浴びる。

いよいよプールへと向かう。強制的に洗浄するタイプのシャワーを浴びながらプールを覗くと、2、3コースを使って年配向け水泳教室をしているのがわかった。逆三角形の体型をしたコーチがプールサイドであと一回!と叫んでいる。

私はそのレッスンから離れた場所で準備体操をする。屈伸や足ぶらぶら、一通りありがちな体操を思い出しながら。さあ泳ぐぞと自分に言い聞かせながら。プールの端で手すりを持ち内部へと降りる。手を離す。う、溺れてしまうこれは!私は慌てて手すりに戻る。思った以上にプールの圧が強く、まるでプールに飲み込まれるよう。プールってこんなに大海原のようなものだったっけ。水深2m超のプールを選んでしまったことを後悔した。しかし来たものはしょうがない。

プールから脱出しビート板を取りに行く。仕切り直してのスタートは順調。ビート板の安心感で平泳ぎ(の足)、クロール(のバタ足)。思ったよりも進まない事実を受け止めながらゆっくり進む。水面は滑らかで、そこを私が船のように分け入ってゆく。

背泳ぎでもしてみるか、とビート板をお腹に抱える。まるでラッコのように。想像したよりも顔が沈んでいるのはビート板が腹部にあるせいだろうか。それとも両手を頭部側に伸ばしてないから?緊張からか首も痛い。しかし得意種目だけあって平泳ぎやクロールよりも早く進む。

三つの泳ぎを繰り返しながら、水の圧に押しつぶされながら、私は時間と戦う。目標の一時間をきっちり過ごすために。時折顔つけをしながら、息ができない苦しみを感じてみたり。変化を付けることで乗り越えていった。最後の頃には水圧への恐怖がかなり薄まった。

そろそろ終わろうかという頃、隣のレーンに七十代と思しきご婦人がやってきた。そしてゆったりとクロールを始める。あっという間にビート板の私を抜いてゆく。18年のブランクはこういうことなのだ。プールからあがったときの体の重み。宇宙飛行士が地球に降り立った時もこのような重みを感じるかもしれない、と大げさながら思う。

シャワーや着替えをしているうちに、今度は体がスッキリとしてきた。顔のラインもむくみがとれている。買ったばかりのゴーグルの締め付けが強すぎて、目の周りが殴られた人のような無残なことになっている以外はなかなか良い(数十分で消えた。安堵)。

翌日である本日はきっと筋肉痛で生まれたての子鹿のようになっているだろうと何も準備していなかったが、脚は何ともなく、動かしていない上腕のほうに筋肉痛がやってきた程度。明日も行ってみようかな、なんて考えている。

室内プールの隙間から眺める青空はとても綺麗だった。