私の怪奇現象

幽霊や怪奇現象なんて信じない。あんなことがあった今でも信じていない。けれど起こってしまったという事実はハッキリと残っている。

そのとき私は20歳の学生だった。夏休みに田舎に帰省して、女きょうだいの部屋を借りた。私は高校三年の夏休み、祖母の長年のいびりに堪え兼ねて家を出たので、それから初の帰省だったように記憶している。

きょうだいの部屋は離れの屋根裏部屋にあった。建物はボロボロで、風通しが悪く蒸し暑い。かつて曽祖母が亡くなったり、曽祖父が自殺未遂をした部屋でもあった。それだけ聞くと曰く付きのように感じられるが、実際は「秘密基地」に近く、私にとって憧れの部屋のひとつでもある。

夜、普通にきょうだいと布団を並べて眠ったのだが、やはり蒸し暑い部屋、苦しみながら目が覚めた。すると私の体は動かない。来た、ついに来てしまった、これがよく怪談や経験談で耳にする金縛りという奴か。それにしても息ができない。ちょっときょうだいに助けを借りよう、と隣に目をやる(辛うじて、目は動くようだ)。しかし隣に居たのはきょうだいではなく、甲冑姿の武士だったのだ。

なんで!なんで武士!ヤダヤダこっち見ないでくれ、あれ?なんか顔が田代まさしに似ているぞ。夢だろうか。しかし田代まさしの向こう側できょうだいがスヤスヤ寝ている。そしてどんなに意識を向けても動かない私の体。田代まさし似の武士は微動だにせずずっと私を見ている。お願いだから何処かへ行ってくれ、とひたすら祈り続けた。

気がついたら朝だった。やはりきょうだいはスヤスヤ寝ていた。私の体はもう自由である。心なしか体に疲れがたまっていたが、金縛りの重みに比べればスイスイと身軽な感覚だ。あれは夢だったのだろうか、しかしあまりにも視界も意識もクリアだった。目が覚めて、母にこの話をすると驚くこともなく「やっぱりね。私も前に見たもの」と言われた。えー!これ普通なの?起きてきたきょうだいは「そんなの全く気づかなかった」とケロリとしていた。

この話からもう15年以上経過し、そんな話はなくなった。途中で改装もしたので、もうすっかり忘れかけていた。しかし先日、遠方在住で久々に田舎に帰っていたきょうだいが「あの部屋で幽霊の声を聞いたんだけど」と言いだした。うわー、また出たよ!しかし、きょうだいは呻き声のようなものしか聞いておらず、声も男女の違いが解りにくい声だったと言っていた。

私にしてもきょうだいにしても「久々の帰郷」とか「体が疲れていたり緊張しているときだった」という共通点がある。だからその疲労から来るものなのかもしれない。世の中で語られる超常現象の多くがそのようなものだろう。もしかしたら一部、本物があるのかもしれないが……。

それにしても田代まさし似の武士とは。曽祖父の写真を見ても似ていないし、一族の血とも違う気がする。武士の時代に写真があったなら、似ているかどうか確認するのに。真相は屋根裏部屋の闇の中だ。