『生きる』の絵本

グランドピアノを借りた日の帰りに図書館に本を返却しに向かっていると、靴の底の踵部分だけがカパカパと外れてしまった。歩くとタップダンスの音がする。図書館内に入り子どもに「好きな本を選んでいいよ」と言い、私は椅子に腰掛けて靴の様子をチェックする。
子どもは何冊か取り出しては読みを繰り返したのち「これにする」と一冊の絵本を持ってきた。 

生きる (日本傑作絵本シリーズ)

生きる (日本傑作絵本シリーズ)

 

谷川俊太郎の有名な詩に挿絵が付き絵本となったものだった。「蝉が出てくるから、これにした」と子どもは言う。開くと、蟻がたかった蝉の亡骸が描かれていた。そして、人々の何気ない暮らし。これは生きているなあ。最後に蝉の新しい命が地中から出てこようとしている。

「ミニスカート」という言葉が出てくるあの有名な詩、私は勝手に「わざとらしさ」を感じていた。いかにもな瑞々しさを、どうだと言わんばかりに押し付けられているような気がしていた。しかしこうやって素朴な日常と共に詩を眺めると、なんだか輝いて見える。もしかしたら、私が年を重ねて尖った部分が無くなっただけかもしれないけれど(でもやっぱり、わざとらしい感動や煌めきの押し付けは嫌)。

図書館最寄りのコンビニで瞬間接着剤と飴を購入する。子どもに飴を食べさせながら、私は靴を瞬間接着剤で直す。手順通りに作業すると本当に靴はくっついた。今までの人生、木工用ボンドばかりで瞬間接着剤を使うことがなかったから、こんなに簡単に早く接着できることに驚いた。

夕方になり始めた駅のホームに、どこからか良い香りがする。これも「生きる」景色だな、と思う。