金木犀の香りを忘れたい

近所を歩いていると金木犀の香りがした。この香りが大好きだと語る人が例年SNSに現れるが、残念ながら私は苦手である。何故ならトイレの香りがするから。そう言うと一定年齢以上の人たちがゲラゲラ笑いながら「確かに昔トイレの芳香剤にはこの香りが使われていたからね!」とリアクションしてくれるのだった。早く金木犀の香りを好きになりたい。あいつ(=昔のトイレ)との思い出を忘れさせてほしい…。

考えてみると、元々その香りを好いていない以上に、幼い頃の私はトイレが苦手だった。田舎の家のトイレは薄暗く、今にもボロボロと剥がれ落ちていきそうな古いタイルに囲まれている。水洗ではない時代は便器内に落下しそうで毎回恐怖だった。さらに5歳頃には粗相をし、祖母によってトイレ内に立たされていたこともある。電気の付いていない夜のトイレで汚れた下着のまま泣いて助けを待ち続ける。家にトイレは複数あるので祖父や親にはなかなか気づかれない。親が気づいて助けてくれるまでの時間が、永遠に感じた。

田舎の家が水洗トイレになったのは私が家を出ていって数年後のことだった。もう落下をおそれなくていいんだ、と喜びながらもどことなく湿り気を感じる個室。新しい木が腐りそう。土壌はそんなに簡単に変わることはない。

 

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私信:おかえりなさい。いや、はじめまして?お互い気楽にやっていけたらいいですね。細く長く。