文化的生活の記録

「旅文学」の小さな本を作っています。

忘れられない入試問題

そろそろトレンチコートだけでは寒すぎて、厚手のコートばかり着るようになった。それでも田舎の山の中に比べればずっと暖かいのだろう。早めにキッチンの一部の大掃除をして、冷たい風に心地よさすら感じた休日。

小学六年生のこの時期、冬休みから約二ヶ月だけ、私は受験勉強というものを経験した。中学受験をしたからである。とんでもない田舎から、ほんの少しだけ発達した街の学校を受けることにした。親や祖父母は周囲への自慢のために、私自身はこの街から極力逃げ出すためである。

田舎すぎて塾など無く、私は離れにある普段誰も利用しない部屋を勉強部屋にすることを許された。部屋には簡易こたつとその上に乗せる大きめの板が置かれた。ストーブもあったけれど、灯油を注ぎに行くのが面倒で上着を着て過ごした。受験勉強を理由に、昼間だけはうるさい祖母やきょうだいから離れることができる。志望校にも受かりたい。私は喜んで問題集などの勉強をした。

とはいえずっと勉強するのも疲れる。気分転換は学校から出された通常の冬休みの宿題。つい日記を一日に2ページ以上書いてしまった。ただ勉強しているだけの毎日なのに。この習慣は、私の文章を書きたい欲求の根底にある気がする。読書感想文でも作文でもない、私の自由に書いてよい日記。

冬休みに図書館で借りた本も役立った。「〇〇な時に読む本」というシリーズもので、色んな作家の短編が寄せ集めになっている本。その中に出てくる『旗』というタイトルの物語が私は好きだった。学校を休んだ女の子が窓の外を見ると、クラスメイトそれぞれの布がパッチワークのように集まり一つの旗となって、女の子に向けて振られている……という内容(だったはず)。

冬休みが終わり通常の生活に戻っても、図書館で再びその本を借りて読んだ。受験前日もパラパラとめくった記憶がある。そして受験当日、私は目を疑った。国語の試験問題は、その『旗』だったからだ。こんなことがあっていいのか。私は文章を殆ど眺める程度に済ませ、すぐに問題に進むことができた。

そして無事に合格し、私は晴れてその学校の生徒となった。あのとき受験勉強を頑張って良かった…という気持ちもあるけれど、それ以上に物語との不思議な因縁がずっと心の中に残っている。

 

たぶんこの↓「きょうはこの本読みたいな」シリーズのどれか。
書籍 | 偕成社 | 児童書出版社