文化的生活の記録

「旅文学」の小さな本を作っています。

陰を知る人

初めて島根県松江市に行ったのは私が小学生の頃だった。山陰の海は何度か見たけれど、私が訪れた時は大抵薄暗い空に灰色の水たまりが広がっているのだ。そして国道9号線はローソンしかない。私の田舎を思えばローソンがあるだけマシなのだが。明らかに瀬戸内海とは違う、その名のとおり「陰」の暗さ。

島根在住のミュージシャン・浜田真理子さんの音楽に初めて触れたとき、まさに頭に浮かんだのはこの景色だった。ファーストアルバム『mariko』。その中に「水の都に雨が降る」という曲がある。そのものズバリ松江を歌ったものなのだが、あれは松江だけじゃない、山陰のあの景色を物語ってる。それ以外の曲も、英語であってもどこか陰りを感じる。そして風景画のように静かに私の心に入り込む。

同じような気持ちにさせられる本がある。発売日を待ちわび漸く届いた、こだまさんの『ここは、おしまいの地』。今回も素晴らしかった。こだまさんは山陰の方ではないが、東北地方のある街に居住されている。前作を読んだときも思ったけれど、今回も感じた山陰っぽさ。表紙の写真そのままに、こだまさんの文章は鉛色の景色を匂わせる。

浜田真理子さんも、こだまさんも、きっと街の・人の・人生の陰を奥深くまで知っている人なんじゃないかと思う。だから、自分の思いを激しく鋭く表現しながらも、どこか優しい。 

SFS-002 浜田真理子 『mariko』 - YouTube

ここは、おしまいの地

ここは、おしまいの地