文化的生活の記録

「旅文学」の小さな本を作っています。

こめかみと寺院

先日出かけた古本市で児童用の英英辞典を見つけた。正確には海外の子どもが使うオールイングリッシュの辞典である。


この辞典がなかなかの掘り出し物で、我が子は貪るように読んでいる。見開きのどこかに絵が必ず載っており、それも大抵が解剖のように詳細を描いたものであることから、英語が分からなくとも楽しめるのだ。従ってページをめくるたびに子どもは感嘆の声をあげ、大人に「ちょっと!これ見て!救命ボートの解剖図だよ?はぁぁ…最高…」と同意を求めてくる。大人が見ても興味深くつい時間が経ってしまうのだった。2007年発行の辞典だったのでかなり値下げされているのだろうが、これだけの情報が250円で買えてしまうなんて。

今日もその辞典を眺めながら子どもが私に「この建物なに?」と質問してきた。おお、これはアテネパルテノン神殿ではないか。パルテノンってこういうスペルなのか(=parthenon)。パルテノン神殿はtempleの例として描かれていた。「神殿とか、そういう宗教の寺院をtempleというのよ、神社はshrineかな?」などと言っていると、寺院はtempleという言葉の意味でも、二番目の項目に書かれていることに気づいた。一番目には「額の両側の平らな部分で、頬の上や耳の前」とある。わー、それってこめかみじゃないか。こめかみをtempleと呼ぶなんて、40年近く生きてきて初めて知った。

これは英英辞典だったからこそ出会えた情報だ、と私は考える。もし普通の英和辞典だったら、順番は逆だろう。こめかみの意味を見過ごしていたかもしれない。そして子ども向けの英英辞典だったからこそ我が子の目に留まったし、私もそれに便乗して気づくことができた。

さらにtempleについてウェブで検索すると、こんな記事に行き着いた。

この記事によると、こめかみと寺院はそれぞれ別のラテン語に由来しているらしいのだが、

しかし、templumも、tempusもともに、元をたどれば、古代ギリシャ語のtemnein(切る)に到達するようです。「永遠の空間から切り取られた聖なる空間」がtemplumであり、「永遠の時の流れから切り取られた時間」がtempusと言われるようになったとされているのです。

このtempusに由来する英単語は、temporary(一時的な)やtempo(拍子)であり、そしてtemple(蟀谷)です。蟀谷は、脈をうち、時間を刻んでいる、いわば「頭の時計」であると考えられたのです。

という風に元は同じ「切る」という言葉であったこと、さらにそれらと時間の関係性が述べられている。ロマンある表現にうっとりしてしまうではないか。そのうっとりと同時に私は気づいてしまった。「固めるテンプル」も、テンプルではないか、と……。

テンプル 油処理剤 固めるテンプル 10包入(1包当たり油600ml) 18g×10包

テンプル 油処理剤 固めるテンプル 10包入(1包当たり油600ml) 18g×10包

 

全くロマンがない方向に舵を切って申し訳ない。もしかしたら「テンプル」に近い名前の材料が使われているのかもしれないし、天ぷら油を固めて欲しいからとか、temperatureの意味からきているのかもしれない。それとも料理の「テンパリング(=tempering, 焼き戻し)」か。そうなるとtemperかもしれない。

いずれにしても、こめかみや寺院と同じく古代ギリシャのtemneinの意味が派生して、ここに辿り着いているような気がしてならないのだ。固めるテンプルの販売元サイトにも商品名の由来を説明するような記述はなかった。私は固まった廃油が鍋からつるんと取れる様を想像しながら、「切る」との関連に胸を高鳴らせている。